臼井雅美研究室 - バロックダンスの部屋 -

 

バロックのダンスと演奏

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音楽と言葉が密接に結びついているのと同じように、ダンスと音楽は遥か昔から、切り離すことのできない芸術として捉えられてきた。

特に17、18世紀の時代において、ルイⅩⅣ世王の支配の下、バロックダンスは王の宮廷楽長であったジャン・バッティスト・リュリによる組曲の成立と共に確固たるスタイルが確立された。

メヌエット、ブーレ、ガヴォット、サラバンド、ジーグ……音楽を演奏するものにとって馴染み深いこれらの舞曲の名前において、この時代のダンスのステップのリズムが音楽を解読させる。あるいは、音楽がダンサーのステップと身体の動きに息を吹き込み、時に軽やかに、また時に力強いアフェクトを舞台空間に表現させるのだ。

ダンスのステップを習い、実践することは、舞曲のフレーズを音楽的に捉えることに役立つ。

だが、ダンスを習わないで舞曲を正しく演奏することは不可能だと言って良いだろう。これは、私がフランスで師事したダンサー、またその周辺のダンサー達と談話した際、彼らの立場からの指摘である。

もしも、ダンスを知らないで演奏すれば、今日しばしば聴かれるような「踊れない」テンポの舞曲演奏 ― 合奏にしろ独奏にしろ ― がなされることになる。

心地よいアレグロ、ヴィヴァーチェはダンサーにとって「速すぎる」テンポになり、アンダンテ、アダージョは、踊り手の身体の動きが止まってしまう程の「遅い」または「遅すぎる」テンポになり得るからである。

しかし、ここで注意しなければならない。

バロックダンスのステップを覚えるのはそう難しくはない。ステップを踏み、フレーズの流れを知る。ここまでは問題がない。

問題は、この、ステップを覚えて踏んでいるだけでは単にソルフェージュを歌っているだけになり、音楽的意味をなし得ないという点だ。

私が師事した先生方の言葉は、今日のバロックダンサーに対してすら厳しかった。「彼らの多くはクラシックを学んでいるので、バロックを踊るのは易しいと思っています。しかしそれは大きな間違いなのです。例えば、クラシックのダンサーは、プリエ(膝を曲げること)で力を入れています。クラシックは、それがジャンプの大きな跳躍を作り出すのですが、我々バロックを踊る者のプリエの感覚はクラシックのそれとは全く異なるのです。」

このような厳格な師によるステップの解釈は、リズムが軽やかに流れるというだけではなく、足、腕のポジションや手首の形、強拍と弱拍のリズムのアップダウンが非常に細かく決まっており、しかもアフェクトのヴァリエーションが多様であった。

例えば、弱拍で行われるプリエは、拍の全部をプリエするのではなく、拍の半分の長さ、という短い間に軽くプリエをする。爪先でステップを踏みながらフレーズを作った最後は直ぐに膝を曲げず、僅かな時間に踵で床を感じるのだ。プリエは、その後の半拍に行って次のリズムを作る。対して、爪先でステップを踏んで直ぐに膝を曲げてプリエすれば、その時にリズムが落ちてしまう。そうではなく、爪先から踵で床を踏み、それからプリエを行うのだ。

この身体の訓練は、生易しくは決してない。

しかし、この流れが音楽の流れそのものなのだ。

従って、ダンスの訓練によって身体に流れを身に付けさせると、舞曲を演奏する時に「頭で」理解するのではなく、「身体と精神」が把握しているリズムからの明確な音楽表現に一歩近づくことができるのである。

舞踏譜について

舞踏譜とは、ダンスのステップや、踊る時の空間的指示、音楽と動きの関わりを平面に書き表したもの。

これは、ラウル=オージェ・フィエ(Raoul - Auger Feuillet 1660ー1710)によって、それまでにも例えば、ルイXIV世のダンス教師でもあった、ピエール・ボーシャン( Pierre Beauchamp 1631ー1705)によって 舞踏記譜が発明されていた記譜システムを著書にまとめ、世に広められた。

フィエは、その出版『コレオグラフィー,あるいは人物・図形・指示記号』(図1) の序文の中で、彼自身が記譜法を発明したとうたっているが、既にボーシャンによってステップ記譜 (図2)は発明されていた。

フィエの著書では 舞踏譜の読み方が詳しく書かれており、踊る時の立ち位置、向き、空間から実際のステップの動きや回転の角度も理解できるように説明されている。

 

 

図1. CHOREGRAPHIE ou L'ART DE DECRIRE LA DANCE

図2. ステップ記譜表(図1の著書から引用)

参考譜例図版

演技の公開

動画

Folie d'espagne pour une femme (Choregraphie par Raoul-Auger Feuillet 1700)

カメラ固定バージョン Fixed camera version

カメラズームバージョン Zoomed camera version

 

 

東京音楽大学公開ゼミナール『音楽のことば』にて

 

ダンス: 臼井雅美 Dance: Masami Usui

衣装: ジェフ・キャスタン、ジャンヌ・ゲラフ Costume: Jef Castaing, Jeanne Guellaff

日時: 2014年5月30日 Date: 30th May, 2014

場所: 東京音楽大学Jスタジオ Place: J-Studio, Tokyo College of Music

動画編集: 馬場隆 Video editting: Takashi Baba

 

 

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舞踏譜

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解説

このダンス "Folie d'espagne pour une femme" は、1700年に、ラウル=オージェ・フィエ(Raoul-Auger Feuillet)によって書かれたコレオグラフィーに基づいて踊られている(2014年5月 東京音楽大学 公開ゼミナール「音楽のことば」, 東京音楽大学Jスタジオ)。

音楽 Folie d'espagne は、様々な作曲家によってヴァリエーションが作曲されている。8小節の定形メロディーを持ち、これをもとに変奏曲形式で作曲が展開される。

このダンスは、定形8小節のメロディーの、最初の4小節が基本の動作になり、後半の4小節は、最初の動きの左右を反転させて、前半の動きに対してシンメトリーの構造を描く。

動画舞踏譜を参照。

この作品を踊るに至っては、2013年1月と12月に、パリにてバロックダンサー、アナ・イエペスの個人指導を受けた。足のポジション(舞踏譜解釈による)と、ポール・ド・ブラ(腕の運び)に関して彼女の指導を守っている。

コスチュームは、パリのコスチュームデザイナー、ジェフ・キャスタンとジャンヌ・ゲラフがデザインと、製作をして下さった。スカート丈の長さ、袖の長さ等、ルイⅩⅣ世時代のオリジナルに沿ったデザインということだった。彼らも、バロックダンスはアナ・イエペスに習い、身体の動きを体感して製作に反映させたということだった。

このお二人を紹介して下さったのも、アナ・イエペスで、特に、スカート丈の長さは足の動きを見るには大切だという。 足まで隠れるようなロングドレスは、ダンスの動きを分かりにくくしてしまうという話も、していただいた。